2013年3月1日金曜日

情報は全感覚を満たせるのか?マルチメディア論

とっても面白い本に出会ったので紹介します。


西垣通 著
『マルチメディア』




一番面白かったのが、「マルチメディアはリアリティをどう変容させるのか?」を主題に、コミュニケーションのルーツに踏み込んでいく部分です。

”生来われわれ生物は感覚にもとづいて生きている。感覚器官から入ってくる情報にもとづいて環境世界のイメージを組み立てる。

これはゴキブリでも犬でも変わりはない。だからまず「感じること」が基層にあるはずで、これに上積みされる表層として「(論理的に)考えること」が位置づけられる。 すくなくとも、そう見なすほうが自然なのだ。 

1970年代に神経生理学者ポール・D・マクリーンが提唱した「脳の三層モデル」ははっきりこの説を裏打ちしている。

ヒトの脳は、生命の基本機能をつかさどる深層脳と、感情にかかわる中間脳と、論理にかかわる表層脳の三層からできており、霊長類特有の表層脳は進化のプロセスの最後に出現したという”


メディア論はじめ、文化系のこういった話はとかく抽象論になりがちですが、進化学を引用しながらサイエンスとして論理展開をしていく流れにハマってしまいました。


生物を専攻してた者らしく言うと、我々が知覚できる世界は感覚器官によって受容できる範囲のもの。感覚器官は生物の体格によるので、昆虫の知覚している世界をヒトが知覚することはできません。


実は昆虫や爬虫類にも目がついており、ヒトと同じイメージを見ているように思いますが、実は情報を網膜の神経で処理しているそうです。 つまり、知覚しておらず、反応しているだけ・・視界から離れた瞬間、先ほどまでのイメージは消え去ってしまうそうです。 同じように見えてると思っていたのに、驚きですよね。


哺乳類は情報を脳で処理する為、世界の記憶が可能です。
ヒトは視覚から情報を取り入れ、世界をイメージすることができます。 部屋にいながらネットで世界旅行をすることもできます。


ただし、視覚からの情報だけでは、結論しか得られず、感動は生まれません。


世界旅行の感動は、旅の資金を溜め、計画を練り、現地に訪れ、コミュニケーションを取りながら目的地に着く という流れ(ドラマツルギー)によって生み出されます。 これをすっとばして情報だけで知ったつもりになっていくと、何もかも、『ブルドーザーで慣らされた地面と同じ』になってしまいます。



上記の内容以外にも、情報化し人々の仕事に場の制約がなくなると、ノマド化する・・など、最近流行の言葉が並んでいました。

実はこの本、第一刷は1994年で今は絶版なんです。とても20年前の本だとは思えない内容でした。

古本屋で購入したのですが、こういう本との出会いがあるから書店はいいですよね

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